上場会社監査事務所登録制度導入の背景
監査法人が適正な監査を行うに当たって準拠すべき監査基準や各種の法令は以前から存在していましたが、その運用や解釈は個々の監査法人や実際に監査を担当する公認会計士の自主的な判断に委ねられ、外部の第三者が個々の監査法人の実施した監査業務をチェックする制度はありませんでした。
一方、90年代以降の景気低迷期に社会的な影響力の強い金融機関や上場会社などの大型倒産が相次ぎ、その倒産の背景に不適切な会計処理や財務諸表の虚偽表示といった問題が指摘されたことから、公認会計士や監査法人の行う監査に対する社会の信頼が大きく揺らぐ事態が生じました。
これに対して日本公認会計士協会は品質管理委員会を設立し、同委員会が第三者の立場で、監査法人や公認会計士が行う監査の質をチェックする品質管理レビュー制度の実施を平成11年より開始しました。
しかし、このような品質管理レビュー制度が導入された平成11年以降も上場会社の監査を巡る不祥事は後を絶たず、海外ではエンロン事件の様に監査を受ける企業と監査法人や監査を担当する公認会計士との間の不適切な関係も問題となりました。
上場会社監査事務所登録制度導入の背景
以上の経緯より、日本公認会計士協会では上場会社に対する不適正な監査が証券市場に与える影響の重大性を踏まえ、平成19年より上場会社監査事務所登録制度を新たに制定し、上場会社の監査を行う監査法人に対して日本公認会計士協会品質管理委員会の上場会社監査事務所部会への登録を義務付けました。
登録した監査法人は上場会社の監査を実施するに相応しい監査事務所かどうかについて日本公認会計士協会の定期的な品質管理レビューを受け、以下の様な問題点があった場合にはその内容が広く一般に公表されることとなります。
上場会社監査事務所登録制度は、監査法人を選択する上場会社や投資家など証券市場に参加する利害関係者にとって有用な情報を提供すると共に、登録された監査法人が自発的に監査基準や各種の法令に準拠した適正な監査を実施し、社会の信頼に応えることを目的としています。
上場会社監査事務所登録制度導入の背景
日本公認会計士協会が上場会社の監査を行う監査法人に対して行う品質管理レビューの項目は多岐に渡りますが、特に重要な項目は以下のとおりと考えます。
監査法人にとって最も重要な事項であり、適正な監査を実施するためには、主に以下の点に留意して監査を実施する必要があると考えます。
いくら監査人としての経験や専門的能力に長けていても、監査人が監査を受ける立場の会社との間で、例えば以下のような関係が有る場合には、独立した第三者としての立場を保持できず監査業務を適正に実施することが困難となります。
監査法人は複数の公認会計士によって経営される組織であり、監査の実施によるクライアントや社会への責任は、監査を直接担当する特定の公認会計士だけではなく、監査法人が組織として負うべきものです。
そのため、監査法人は組織としてのコンプライアンス体制を整備し、以下の様なリスクの管理及び業務品質の維持向上に継続的に取り組む必要があります。
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